クリニックでシステム障害が起こるとどうなる?トラブル事例と対策のポイント

クラウドストライク事件など世界的なシステム障害が発生している昨今。多岐にわたる事業がシステム障害トラブルに直面するリスクを抱えており、クリニックも例外ではありません。

本記事では、クリニックで起こり得るトラブルの例や障害時の対処法、実際にクリニックで起こったトラブル事例について詳しく解説します。発生のおそれがあるシステム障害を理解し、トラブル時に適切な行動をとれるよう備えましょう。

クリニックで診療停止の可能性があるトラブル例

クリニックでシステム障害が発生すると診療の継続ができなくなったり、呼び出し機能やオーダリングシステムの停止によってスムーズな診療ができなくなったりします。具体的に、クリニックで起こり得るシステム障害の例は以下のとおりです。

それぞれ詳細を見ていきましょう。

通信回線のトラブル

通信回線のトラブルが起こると、診療の継続が困難になるおそれがあります。近年クリニックでは、電子カルテや予約システムをはじめとした、さまざまなITシステムが導入されていますが、クラウドタイプのシステムが増えているのが現状です。

クラウドタイプのITシステムは、通信回線に障害が起こると使用できません。しかし、バックアップ回線やモバイルルーターなど、通信回線のトラブルに対して対策を講じることは可能です。

通信回線トラブルは自院だけでなく周辺のクリニックも一斉に診療がストップする可能性もあるため、システムのメーカーに対策を確認してみましょう。

院内のネットワークトラブル

院内のネットワークトラブルが発生すると、障害が起こっている一部の場所で診療を行えない場合があります。ネットワークトラブルは、ルーターをはじめとしたネットワークの中継機器が故障していたり、ネットワークに接続するために必要なLANケーブルが断線していたりといった原因が考えられます。

復旧するためには、不具合が発生している場所の特定が必要です。ただし、院内のすべてのシステムが接続されているような機器が故障した場合は、院内全域のシステムが使用できなくなることもあるので、ご注意ください。

端末のハードトラブル

システムの端末にトラブルが生じると、該当のシステムが使用できなくなります。システムの端末とは、電子カルテを使用しているパソコンや、会計をするためのPOSシステムなどのことです。

端末のハードトラブルでは、故障したシステムのみが利用できなくなるため、診療自体は継続できる場合もあります。たとえば、プリンターが故障したときは領収書や処方箋の発行ができなくなりますが、手書きで対応できれば診療の継続は可能です。

端末のハードトラブル時に診療を継続するためには、故障時の対応を事前に考えておくと良いでしょう。

停電

停電が発生すると、院内のさまざまなシステムが使用できなくなります。医療機関のITシステムや検査機器の多くは電力によって稼働しているためです。

ノートパソコンやポータブル型の超音波機器など充電型のものであれば、バッテリーが残っている間は稼働できます。しかし、デスクトップパソコンなどは電源が切れてしまうため、データに危険がおよぶ可能性も。無停電電源装置(UPS)を導入すると、停電時に一定時間電力を供給できるため、安全にシャットダウンができます。さらに、非常用自家発電装置があると診療の継続も可能です。

近年は雷の発生件数も多くなっており、停電のリスクが上昇しているため、停電対策はしっかりと考えておきましょう。

自然災害

地震や水害といった自然災害の被害を受けたとき、クリニックのシステムは利用できなくなるおそれがあります。加えて、システムの形態によっては、データごと消えてしまうおそれもあります。

たとえば、クラウド型の電子カルテであれば、データはクラウドサーバーに保管されているため、端末が破壊されたり水没したりしてもデータが消失する心配はありません。しかし、オンプレミス型の電子カルテの場合は、自院に設置されているサーバーにデータを保存しているため、サーバーが壊れてしまうとデータも消失します。

実際に、東日本大震災では電子カルテのサーバーが被害を受け、データの回収が困難となった医療機関が多数ありました。オンプレミス型の電子カルテを使用しているクリニックでは、バックアップ体制を確立させたり、水没の危険性がない場所にサーバーを設置するなど、対策をしましょう。

今からできる!クリニックのシステム障害対策

トラブルには多数の種類があり、いざ発生するとスタッフもパニックになるおそれがあります。しかし、あらかじめ対策を立て、訓練をしていれば難を逃れられる可能性も。今からやっておくべきクリニックのシステム障害対策を詳しく見ていきましょう。

トラブル時のマニュアルを作成しておく

トラブルが発生したとき、どのようにして対応するかのマニュアルを作成しておきましょう。トラブル時の診療体制をマニュアル化しておくことで、とるべき行動を瞬時に判断できます。

日ごろ使用している電子カルテや会計システムが突然使えなくなったら、あわててしまうものです。メーカーに問い合わせなければならない場面も想定できるため、トラブル発生時の連絡先もあわせてマニュアルにまとめておくと安心です。

紙媒体を用意しておく

電子カルテや会計システムが使えなくなった場合に備えて、紙カルテや紙伝票を用意しておきましょう。トラブル時に診療を継続するのであれば、一時的に紙カルテや紙伝票を使用し、アナログ的な運用をする必要があります。

医療機関もデジタル化が進んでいるため、紙カルテや紙伝票を使用する機会は減少していますが、緊急時のために確保しておくと良いでしょう。

トラブル時を想定した訓練をする

緊急時の体制を想定して、定期的に訓練を行っておくと安心です。トラブル時のマニュアルや紙カルテを用意していても、必要なタイミングで適切に使用できなければ意味がありません。

とはいえ、使い慣れていないとトラブル時にパニックになってしまう可能性もあります。万が一の事態が起こったとき、スムーズに対処できるよう、平時から準備をしておきましょう。

トラブル発生時に各フェーズで対応する方法

トラブルが発生したとき、診療を継続するための対応を、フェーズごとに分けて紹介します。

受付

トラブルによって受付周りのシステムが使用できない場合は、来院順や受付時間をメモして対応する必要があります。通常であれば、受付システムのチェックイン時間などから診察の順番を決めるケースが多いですが、システムがダウンすると記録を確認もできません。

保険証についても、前回登録分が見られないため、患者さんに口頭で変更の有無を確認したり、コピー機が使用できる場合はコピーをとって後日確認したりする必要があるでしょう。

診察

トラブルにより電子カルテが使用できなければ、紙カルテに記録をし、復旧後に電子カルテに内容を入力する必要があります。加えて、これまでのカルテを閲覧できないため、処方内容や検査結果を確認できない点にも注意が必要です。

また、電子カルテが使えなければ処方箋も手書きで作成しなければなりません。紙カルテだけでなく、手書き処方箋の用紙もストックしておきましょう。

会計

システムトラブルによって自動精算機やセミセルフレジが使用できなければ、手動で会計を行います。トラブルの内容によっては、自動精算機やセミセルフレジから現金を取り出せない可能性もあるため、緊急時に備えて多少の現金も用意しておく必要があるでしょう。

また、当日精算が難しければ、後日精算にせざるを得ない場合もあります。請求書や後日会計の案内をあらかじめ用意しておくと安心です。

本当にあった!クリニックでの恐ろしいトラブル事例

ここからは、実際にクリニックで起こったトラブル事例についてご紹介します。前提として、トラブル時の障害の範囲は次の4パターンがあります。

それぞれの事例に対して、乗り切った方法なども解説するので、トラブル時の対応の参考にしてください。

事例1.落雷で3時間停電!診療ストップ+データ破損が起こったNクリニック

落雷によって停電が発生したNクリニックでは、以下のすべてに障害が生じました。

 

ITシステムに加えて、心電計などの医療機器も稼働できなかったため、診療を完全にストップせざるを得ませんでした。再開するには、停電の復旧を待つしかない状態です。

加えて、タイミングが悪く電子カルテシステムのデータ更新中に停電が発生したため、診療データの破損が生じてしまいました。その後、Nクリニックはメーカーのサポートにより、バックアップから電子カルテデータを復旧し、診療を再開できました。

事例2.クラウド型電子カルテのシステムが突如ダウン!診療がストップしたCクリニック

Cクリニックでは、クラウド上のサーバーがダウンにより電子カルテシステムが突然停止し、使用不可能な状態に陥りました。障害の範囲は以下のとおりです。

インターネットの通信は可能だったため、メールの送受信などはできるものの、電子カルテの参照や入力、受付・会計処理はできません。対処方法がなく、復旧を待つしかありませんでした。

突然のトラブルだったため、Cクリニックは紙カルテの運用に一時的に切り替えることに。しかし、電子カルテが使用できないとなると、過去のカルテが参照できないため、診療速度は著しく低下してしまいました。また、会計もできないため、支払いは後払いの対応をとったとのことです。

トラブル対応を想定したシステム選定を

クリニックのシステム障害トラブルは多岐にわたります。特に起こりやすい通信トラブルやネットワークトラブル、ハードトラブルについては、同じトラブルが発生しても導入している電子カルテのタイプ(オンプレミス型・クラウド型・ハイブリット型)やメーカーによって、障害の範囲に差が出ます。

対処法やサポート範囲も異なるため、これらを理解したうえでメーカーや製品選定をする必要があるでしょう。目利き医ノ助であれば、トラブル時の影響やサポート体制まで考慮したシステム選定のご相談を承れます。システム障害の対策を考えているクリニックは、ぜひ目利き医ノ助にご相談ください。