今の開業に必要なコンサルとは何か

「開業コンサル」という言葉を聞いた際、皆さんはどのようなイメージを持ちますか。SNSなどを通じて医師同士の情報交換が盛んな今日では、自身の状況に合わせて必要なコンサルティングを専門家に依頼することが重要だと感じています。そこで、今回は開業医専門の税理士の視点から、「現在の開業に必要なコンサルとは何か」を解説します。

「開業コンサル」は悪?

「開業コンサル」と聞くと、今ではマイナスのイメージを持たれることの方が多いように思える。

まず、ここで言う「コンサル」とは、最近保険診療の開業ではトレンドになりつつある薬局、医療機器卸業者、レセコンメーカーさん等による無料の開業支援ではなく、「有料コンサル」のことである。

従来、クリニック開業における「コンサル」とは、忙しいドクターの代わりに開業に必要な業者をまとめて窓口になり、全体のスケジュールを管理する立場を担うのが役割であったと言える。良いイメージを持たれないコンサルではあるが、この窓口となって全体を管理し、無事予定した日にクリニックをオープンさせる業務というのは責任重大であり、作業量も拘束期間も膨大となる。また、当たり前であるがクリニック開業とともにその業務は終了するため継続的な定期収入とはならない。クリニックの開業は例えビル診であっても開業~オープンまで早くても半年程度、長いと1年近くなることもめずらしくはないため、作業量・拘束期間・不定期という要素で判断すると正直コンサル料が100万円単位となるのはむしろ当然ではないだろうか。

しかし、コンサルは「高い」と言われる。

なぜ、コンサルは「高い」と言われるのか?

なぜ今そのように言われているのか、それは開業についての情報が今まではコンサルにとって「ノウハウ」であったからではないかと思っている。

Twitterを主戦場にしている私にとって、今やSNSは開業情報の宝庫である。しかしほんの少し前は開業についての情報量は圧倒的に少なく、どのように開業準備を進めていけばよいのか分からないと思っているドクターも多かったのではないかと思う。

また、開業にかかわる業者側にとっても全体のスケジュールを管理し、忙しいドクターに代わって窓口になってくれるコンサルの存在はありがたかったはずである。こうしてドクターをはじめ関係者全員が有料コンサルを重宝していた時代は確実にあったと言える。

しかしながら時は流れ、いわゆる総まとめ役の立ち位置が主業務であった有料コンサル不要の時代がやって来る。これは先の通り開業に関する情報がSNSを中心に簡単に入手できるようになったことのほかにもう一つ、行き過ぎた手数料ビジネスを行う業者のやり口がSNSによって広まったことが大きいと思う。

コンサルティング費用の考え方

本来、開業準備においてコンサルと業者に支払う代金の内訳は、コンサルにはコンサル業務の実働部分に対する対価、業者には物やサービスの対価であることが正しい形と言える。また、コンサルがドクターと業者の双方に紹介料を要求することもある。ドクターにとっては業者選びの手間が省け、その人脈による恩恵を受けるメリットがあり、業者にとっては自社で集客費用をかけずに紹介してもらえるメリットがある。それゆえ、更に双方から紹介料を取るのが適当かどうかは判断分かれるところではあるが、コンサル自身も広告費をかけて集客している事情を考慮すれば紹介料を取る行為自体が悪質であるとは言えない。

SNSで問題となったのは、その紹介料がまるっと全部ドクターが支払う物やサービスの代金に上乗せされていたことにある。

これがいつの日かドクターの間で周知の事実となってしまったのである。

そうなると不思議なもので、有料コンサルの業務がそもそも料金を支払わないと得られないノウハウなのか?となってくる。

その結果が今のトレンドである、ドクター自身が自ら窓口として総まとめ役となり、薬局、医療機器卸業者、レセコンメーカーさん等の無料コンサルをつけて、保健所の手続き支援や全体のスケジュール管理の支援をしてもらうスタイルが生まれたと思われる。

「無料コンサル」の存在

当たり前であるが、無料コンサルと言っても実質無料ではない。「何かを買ってもらう代わりに」というのが前提である。結局「手数料で儲ける」という構造には変わりはないが、「過剰な手数料」「何もしていないのに手数料」というのがなくなった。

既に開業に係る業者の間では「すべて筒抜け」というのを認識している。

だからといって全くの原価で物を売る、サービスを提供するということではなく、適正な利益を請求することが業界の常識になりつつある。同じ機種やサービスで出る値段の差は、無知なドクターからぼったくるではなく、例えば複数台の購入等何かしらの理由がある場合であって、今更ここまで筒抜けの状況の中でドクターによって理由なく差をつけることが得策ではないことを業者側は既に十分理解している。

そのため業者とドクターの間にコンサルが立たなくても適正な取引は可能となったため、次に必要とされるコンサルは別の専門分野を得意とするコンサルへと移っていく。

現代の開業に必要なコンサルタントとは?

コンサルとは、その時一番旬の需要に対するノウハウを持っているべきである。

では、今の開業に必要なコンサルとは何であろうか。個人的にはやはり広告とIT化である。私個人はそのどちらも得意としないため、この時代において非常に不利な人間であると自覚している。ただし、得意としないことと理解をしないということは全く別物であると思っている。

十数年前はクリニックのホームページがあれば十分であった。予約システムも順番待ちシステム程度しかなかった。カード決済ができるのは歯科か美容クリニックだけであった。

しかし、時代は流れ、開業時にホームページがあるのは当たり前、その上SNSの運用、SEO、MEO対策も必要?と広告施策の種類は増えた。受付周りもWeb予約にWeb問診、自動精算機にキャッシュレス決済と開業時に装備するアイテムは次々と増えている。この中で何が自分のクリニックに必要なのか?診療科や規模によって不要なもの、最初に導入しないと後から導入が難しいもの、逆に後からの検討でも十分なもの、まず理解しなければ正しい選択と判断はできない。

私は税務の専門家であるため税務については日頃からアップデートを常としている。それは顧客からプロとして意見を求められたときに最善の提案をするためである。その他に税務以外のこれら開業に関する最新の状況や、社労士といった関連士業の業務についてもさわりを答えられる程度には把握するようにはしている。とはいえ、やはりその道のプロに尋ねるのが一番だと思っている。

おわりに

先に書いた通り何事も「旬」がある。今私の思う「旬」は広告回りとIT化であり、この部分を専門とするコンサルを味方につけるのが今後の開業においては不可欠であると思っている。様々な影響によってクリニックの開業総額は年々増加しており、投資の回収が安易ではない時代に突入しているというのは誰もが実感していると思う。

当たり前であるが、開業の成功とは「患者が来る」ことである。そもそもの開業場所選びはもちろんであるが、いかに患者を集め、クリニックのファンとなってもらうかが大切である。そのためにはどのようにして競合を押さえて自分のクリニックに来てもらい、継続して通ってもらい、家族や友人に紹介してもらえるようにするか。院長本人やスタッフの人柄、接遇も重要ではあるが、その前の入り口である集患対策、HPの分かりやすさ、予約システムやWeb問診システムの使い勝手の良さ、決済方法の充実も今後は開業時に十分検討すべき課題であると言える。

ただ、こう言ってしまうと元も子もないが、総まとめ役の立ち位置が主業務の有料コンサル時代にもあったように、本当に専門性があって、適正な料金を請求する業者選びは至難の業であるとも言える。専門家は正しい知識やノウハウを適正な価格で提供し、その分専門家には正しい価値が支払われる。これが私の理想である。

今後弊社としては常にこの「旬」に対応できる業者との連携を強化するのはもちろん、私自身ももう少し勉強が必要だと心には思っている。

■著者

ビーワン先生(Twitter:@medicaltaxTokyo

 「税務・会計」と「医療機関に係わる行政手続き」の両方に詳しくセットで相談できることが強みとする開業医専門の税理士。

「ビーワン先生@開業医専門税理士」のアカウント名でクリニックの開業、経営について日々Twitterで発信。

医療専門の会計事務所に約12年勤務し、数多くのクリニックの開業・経営支援に携わり、医療法人の設立、大手美容クリニックの分院設立、一般社団法人でのクリニック開設等、行政手続き支援にも多くの実績を持つ。

2020年7月、クリニックの開業、資金調達、財務改善、税務会計を支援する「株式会社ビーワンクリニック」を公認会計士とともに設立。